大田原地区の先輩移住者に会いに行く 〜前篇〜
目次
1.
大田原地区在住のヨコヤマです。
初夏を迎え、地区の田んぼには一枚一枚に水が入り、田植えも進んでいます。

山里の小さな田んぼでは、田植え前に水を引いて代掻きをするのもこまごまと手間のかかる作業。
それだけに、まだ淡い新緑の山々を背に、苗の植えられた田んぼの景色は、どこか誇らしさと、これからの生育への期待に満ちた瑞々しさを感じさせます。
わが家の畑では、妻がせっせと野菜の苗を植え付けています。
ここに住みはじめてから、ずっとやりたいと思っていた野菜畑。
夏野菜の支柱は、家の裏でとってきた竹の棒を利用するなど、いろいろ工夫しながらやってくれている様子です。
妻の友だちにも助けてもらって、今年はうちの野菜もたべられるかな、と今から楽しみにしています。

2.
さて、わたしたちがこの大田原を知ったころ、地区の真ん中には「山の店かたくり」というお店がありました。
もともと店舗を経営していた地元の農協が撤退したあと、地域の人たちが利用できる場所を残そうと、お店の運営を引き継いだのがようこさんという女性でした。
ようこさんも、夫のあきらさんも東京のご出身で、わたしたちより何年も前に大田原地区に移り住んだ、先輩移住者のご夫婦。
ようこさんの「かたくり」は、食料品や生活雑貨を扱うだけではなく、地域の人や外の人がふらりと立ち寄って、気軽な時間を過ごせる場所でもありました。
誰にとっても心をゆるせる場所だったのは、いつも朗らかで、やわらかいユーモアにあふれた、ようこさんの人がらによるところが大きかったと感じています。
わたしたち夫婦もこの地域に引っ越す前から、たびたび「かたくり」を訪れては、ようこさんやそのとき居合わせたみなさんとお茶を飲み、あれこれおしゃべりを楽しんでいたものです。
移住先を探していたときに、今の家を紹介していただいたのも、ここでのお茶の席でした。
やがて「かたくり」のお店は閉められましたが、ようこさんご夫妻とは今でも家族ぐるみで仲の良い間柄。
わたしは目の前の暮らしに追い立てられて忙しない毎日ですが、たまにようこさんの家を訪ねておしゃべりをするのが、今でも心がいちばん和やかになる時間のひとつです。
先日の晩も、ひさしぶりにようこさんご夫婦とのお茶を楽しんできました。
3.
ご夫妻のお宅は、大田原地区の中心から少し外れた静かな場所にあります。
手入れの行き届いた野菜畑と間近に迫る山裾に囲まれて、こじんまりした平屋が佇んでいます。
夕食を終えたご夫妻の居間にお邪魔すると、ここにも木々を揺らす夜風の音が穏やかに聞こえてきました。
――今日は、市の移住者サイトの原稿の取材ということで。先輩移住者の声をぜひ伺いたいと思いまして。
ようこ:「ほんとにいろいろやってるんだね(笑)」
ヨコヤマ:じっさい今月なんかは田んぼの仕事の方で手一杯なんですけど…。
それで移住された経緯については以前から度々うかがっているんですが、あらためてお聞きしたくて。もう20年以上前ですよね。
あきら:「26年。私だけ1年早く住みはじめたから27年。」
――大田原地区に決めたのは、ある意味、偶然とうかがっていますが。
ようこ:「そうだね。こっち側に山があって向こうにもあって。そういう場所で探していたのもあってね。東京では五日市の横沢入というところが好きで、ほたるやとんぼがいたりしてね。そこと大田原が地形とかが似ててね」
あきら:「もう東京暮らしが嫌になっちゃってね。
もともとバイオテクノロジーやDNAが専門だったんだけど、ちょうど技術の変化もあって、もっと自然に直結した生き方がしたいなと」
ようこ:「たまたま別の地域を紹介されて、そこを見に行った帰りに大田原を通りかかったんだよね」
ヨコヤマ:「それぞれの専門の職をもっていたご夫妻が、偶然訪れた大田原地区を気に入り、土地に根ざした暮らしをされていること。わたしもなんとなくその魅力がわかる気がします。」
ようこ:「これもうインタビューはじまってるの?」
ヨコヤマ:まあインタビューというか、いろいろおしゃべりできればいいなと。
ようこ:「わたしつくずくね、人生は、やっぱりご縁だなって思うのよ。タケオさんとであったのもね」
ヨコヤマ:「あ、ほんとうにそうですよね。“ かたくり ” におじゃまして。」
ようこ:「それで家を探してるって言ってたのよね。その後にクロネコ?」
ヨコヤマ:「いや、その前から宅急便のアルバイトで荷物あつめにきてました。
初めて来たときは神社のお祭りの日で、裃着た人が何人も歩いてて、本当にびっくりしました。」
「それで何年かして、それまで住んでた借家が農業やるには手狭で。“ かたくり ” で、ようこさんに紹介してもらって、空き家を見に行ったら、たまたま持ち主の方が来ていて。」
ようこ:「よかったよね」
ヨコヤマ:「それこそご縁ですよね。」
ようこ:「話はとんとん拍子にいったの?」
ヨコヤマ:「えーと、そうですね、秋口に持ち主の方と知り合って、暮れには売買の契約をして、春までかかって手入れをして、引っ越してすぐ子どもが生まれて。」
ようこ:「どうしてあそこが気に入ったの?」
ヨコヤマ:「単純に家の程度がよくて、金額もなんとかなる感じだったのが大きいですよね。最低限の手入れと、水回りの工事だけで住める状態でしたし。」
ようこ:「やっぱり水回りだよね。うちなんか、ふたりでひっそり暮らすつもりだったから。電話帳の一番最初に載っていた業者へ電話して」
ヨコヤマ:「この建物はそのままの状態だったんですか。」
あきら:「内装はやりなおしたけどね」
ようこ:「これ、梅酒の古漬けだけど」
ヨコヤマ:「あ、おいしい。」
すっかり日が暮れた山里のお宅で、お二人とのおしゃべりはまだまだ続きます。
ここで過ごす時間はいつも居心地がよくて、ついつい時を忘れてしまいます。
ご夫婦が移住されてからの印象や、大田原地区にむけた思いなど、次回の記事で紹介しようと思います。
この記事を書いた人:移住者ライター ヨコヤマタケオ
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