農の季節。
目次
1.
大田原地区在住のヨコヤマです。
初夏に入り、1年でいちばん農作業の忙しい時期を迎えています。
家族でつくる田畑に加え、理事を務める農業法人で扱う農地もほかの地区にあり、お米やりんごづくりの仕事に駆け回る毎日です。
我が家の田んぼの一部では農薬を使わずに稲を育てています。今年も田植えの済んだ水田を歩き回って草取りをしていると、小さな生き物の姿が目に留まりました。
たにし、あめんぼ、いとみみず、やご、たくさんのおたまじゃくしなどはもちろんのこと、今年は「豊年えび」が腹を見せて泳いでいるのをみつけました。
りんご畑では、花の落ちたあとに小さな実がつきました。たくさんの実の中から、質の良いものを選りすぐって残す、「摘果」の作業も真っ盛り。
こちらの仕事は主に妻が手がけています。
5月21日には雷雨に加えて暴風と雹が降り、長野県北部のあちこちで農作物に被害が出ました。幸い私たちの農園ではりんごの傷つきも少なく、ほっと胸をなでおろしています。
けれど、すぐ近くの知人の畑でもりんごやぶどうに被害があり、とても他人事ではありません。
それにしても、毎年のような暴風雨や高温の影響など、気候の変動がひとの暮らしや農業の営みをむずかしくしていることを肌で感じます。
2.
もとよりわたしが千曲市に住むようになったのは、農業をしながら生活をたてていきたいと思ったからでした。
学校を出て祖母の家に身を寄せた当時はそんな漠然とした希望だけで、農地や機械などの基盤もありませんでした。思い返せば何も考えていなかったなあ。
ありがたいことに地域の方に農地や働く先を紹介してもらい、妻と一緒にすこしずつできることを増やしてきました。今ではお米とりんごをつくるほか、農業法人の仕事などを組み合わせて、ほぼ一年じゅう田畑に出て働く毎日を送っています。
あまり大きな収益があがるわけではありませんが、それでも家族で暮らせる日々を得られていることは、望外の幸せだと感じます。
3.
今年も猛暑の日々がやってきました。
標高のたかい大田原地区でも、6月の中ごろから、日中は30度を超える気温に、くらくらしそうな日差しが照り付け、連日厳しい気候が続いています。それでも午後の日が傾きだすころからは山の影がだんだんと田畑を覆い、いくぶん涼しい夕方の風が吹きはじめます。
いちばん下の子どもを保育園に迎えにいったあと、もう一度田んぼをまわるのが、最近のお気に入りの時間になりました。
田んぼの畔に立てば、昼間の日差しで火照ったからだを静めてくれる風が心地よく、やがて蛙や草むらの虫が鳴きだします。
グラウンドで遊ぶ子どもたちの遠く呼びあう声。焚き火のけむり。
県道を走る車のライト。点々とともる街灯のあかり。
あたりがすっかり暗くなるころには、山裾の田んぼから一匹二匹と、ほたるがまばらに飛びはじめました。
そういえば先日のお酒の席で、地区の方が昔の話をしていたことを思いだします。
「水路を舗装する前は、大田原にもほたるがたくさんいたもんだよ。」
やわらかくはずんだ口調が当時を懐かしんでいました。
「縁側から家の中に入ってくるくらい、そりゃもうたくさん飛んでいたっけ。」
わたしもそんな頃の夏の夜を想像しながら、高く低く光るほたるに促されるように、そろそろ家に帰って冷えたビールが飲みたくなってきました。
この記事を書いた人:移住者ライター ヨコヤマタケオ
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